2006.11.06

NHKアニメ・ポワロとマープル「雲の中の死 その4」

 もう1年半も前に録画したまま放置していたNHKアニメ名探偵ポワロとミス・マープル「雲の中の死 その4」を見た。
 この最終回だけ感想を書かずにずっと放置していたのでずっと気になっていたのだが,これで完結である。

 前回のできがこのNHKアニメとしては出色の出来であったため,この解決編も大変すっきりしていておもしろかった。
 この作品のおもしろいところは,「歯科医の白衣はスチュワードの衣装に似ている」という点と「吹き矢の毒で人を殺す場合,矢を吹くよりも矢を手に持って刺したほうが確実だ」という点の合計2つの意外な盲点を核にトリックを構成し,様々なミスリーディングをしかけていくというところにある。
 このうち,前者の盲点は,ややビジュアルな要素なので,実は小説ではやや分かりにくく気付きにくいという欠点があるのだが,このNHKアニメではしっかり視覚化しているので,トリックが明かされたときにも非常に納得しやすく,良い効果を生んでいると思う。
 この作品に関しては,アニメ化が非常にうまくいっていると感じた。

 NHKアニメ名探偵ポワロとミス・マープルを全部通して鑑賞した結果,個人的な感想として,素直によい出来だったと思うのは

 巻尺殺人事件
 金塊事件
 雲の中の死
の3作品であり,それ以外で,やや難があるものの鑑賞する価値があると思ったのは
 ダブンハイム失踪事件
 エンドハウス怪事件
の2作品である。
 全体を通してポワロが優等生過ぎるという不満はあったが,出来の良い作品にもこれだけ出会えたというのは収穫であった。

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2005.10.16

NHKアニメ・ポワロとマープル「雲の中の死 その3」

 もう半年も前に放送されたものを録画したまま見ていなかったのであるが,NHKアニメ名探偵ポワロとミス・マープル「雲の中の死 その3」を見た。

 前回分のできもなかなか良かったのであるが,今回も推理物の見せ方としては上々と言えるできだと思った。
 特に,フルニエ警部が問題の飛行機の乗客の所持品を挙げてコメントを加えるところなどは大変秀逸である。
 ネタバレになるので,黒い文字で書くが,フルニエ警部が,ノーマン・ゲイルの所持品を挙げながら

 ・・・続いて,ノーマン・ゲイル
 ハンカチ,現金,雑誌2冊,マッチの空き箱,白衣,歯科医が使う鏡,脱脂綿・・・
 歯科医とはいえ,仕事熱心ですね・・・
と言う場面などは,真相を知る人から見ればにやりとさせられるうまいせりふ回しである。
 その後,すかさずフルニエ警部に,吹き矢の代用品として使える品々を持っていたほかの容疑者の話をさせ,視聴者の注意をそらせるとともにミスリーディングしているのであり,なかなか凝った構成である。
 これは,せりふ回し自体は原作にないオリジナルの部分なのであるが,そこでこういうテクニックを見せられると大変楽しい。

 解決編になる次回が楽しみなできであった。

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2005.07.18

NHKアニメ・ポワロとマープル「雲の中の死 その2」

 録画していたNHKアニメ・名探偵ポワロとミス・マープル「雲の中の死 その2」を見た。

 今回も,このNHKアニメはなかなか好調である。
 ポワロが,吹き矢を窓から捨てる方が犯人とって好都合だったはずではないかと指摘する場面などは,原作と違って,実際に飛行機に乗っている場面で指摘しているので,視覚的にも分かりやすく,うまく視聴者の印象に残るように工夫している。
 原作よりも,分かりやすい面があるとすら言えるのである。

 さらに,ヘイスティングズが吹き矢を吹くまねをして乗客の注目を集める場面などもなかなかよろしい。
 原作では,ヘイスティングズが登場しないため,パリ警視庁のフルニエ警部が同様の行動に出るのであるが,このような道化た行動は,やはりヘイスティングズがお似合いである。
 結末を知っている人にとっては分かるだろうが,この場面をしっかり視聴者に印象づけることは,実は大変大切なことなのである。

 なかなかいい感じのアニメーション化である。
 この調子で,最終回までいってほしい。

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2005.07.16

NHKアニメ・ポワロとマープル「雲の中の死 その1」

 録画していたNHKアニメ・名探偵ポワロとミス・マープル「雲の中の死 その1」を見た。
 原作は,アガサ・クリスティー著「雲をつかむ死」(ハヤカワ・クリスティー文庫)である。

 この作品は,ポワロが乗り合わせた飛行機内で殺人が起こるという,おそらく執筆された当時としては最新の乗り物内を舞台にしたユニークな作品である。
 一種の密室作品であるから人物の位置関係が非常に重要になるのであるが,今回のNHKアニメは,登場人物にそれぞれ供述をさせながら,画面上に被害者と供述者の位置関係をうまく図示していたので,見せ方としては大変良くできていると思った。
 小説を読むよりも位置関係が頭に入りやすいのでなかなかよろしい。
 物語の導入部としては,非常に良いできだったと思う。

 この作品の原作で,ポワロが

 世界的に有名な人というものは,めったにたいした人物には見えないものです。
 私自身も散髪屋とまちがえられたことがありますからね。
と言うところなどは,ポワロの尊大さが見事に表現されていて大変おもしろい発言だと思うのであるが,その辺りがNHKアニメでは省略されていたのは残念である。
 いつものNHKアニメ版ポワロらしく,またやや謙虚なポワロに戻ってしまっているようだ。
 なお,ポワロが散髪屋と間違われたというのは,言うまでもないが,「アクロイド殺し」でシェパード医師に「床屋のポロット氏」と呼ばれた件を指しているのであろうことを付言しておく。

 NHKアニメの第2回も期待して見ることにしよう。

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2005.07.02

NHKアニメ・ポワロとマープル「ダブンハイム失踪事件」

 NHKアニメ・名探偵ポワロとミス・マープル「ダブンハイム失踪事件」を見た。
 原作は,「ポアロ登場」所収の短編作品「ダヴンハイム失踪事件」である。
 この原作は,大変できのいい短編であると思うので,期待してNHKアニメを見た。

 今回のNHKアニメは,良いできだと思った。
 このNHKアニメシリーズは,全体として不満の残るできのものが多かったが,この「ダブンハイム失踪事件」に関しては,ポワロが,本当にポワロらしくてなかなか楽しかった。
 そもそも,足跡やたばこの灰などの客観的証拠を丹念に集める警察の捜査手法について

 ロンドンのすずめにだって同じことができますよ
と言い放つこの独善的な態度が,なかなかおもしろい。
 NHKアニメの「プリマス行き急行列車 後編」のときには現場回りをしたメイベルを誉めるという行動に出たポワロであったが,ここでは自らそれと矛盾する発言をしているのである。
 この方が,ずっとポワロらしいと思う。

 現場に出向かずに考えるだけでポワロが事件を解決できるかどうか賭けをしたシャープ警部が,原作のジャップ警部のように,部屋を出て行きながら,ヘイスティングズに向かって

 わるいみたいだな
 子供からまきあげるみたい
とか
 かわいそうに,戦争で頭がいかれちまったんだよ
などと軽口を叩いたらもっと大笑いできただろうが,さすがにNHKアニメの設定したシャープ警部の性格ではそこまで言わせることはできなかったようだ。

 ポワロが,いきなり

 ダブンハイム夫妻が同じ寝室を使っていたかどうか,分かりますか
という,一見すると関係のなさそうな質問を始めるところも,いい味を出していると思う。
 この質問を聞いて,あきれたようなシャープ警部の声や表情が大変おもしろい。

 メイベルのメモの内容に対して,ポワロが

 まだまだ未熟ですね
と論評するのは,アニメ製作スタッフのメイベルへの優しさであろう。
 この部分は,原作では,ヘイスティングズのメモになっており,ポワロはそのメモを評して
 かわいそうにな!
 しかし,君に才能がないんだから仕方がないさ
と切り捨てる。
 さすがに,ポワロがメイベルをそこまで酷評するとかわいそうなので,「未熟」という表現にしたのであろう。

 いずれにせよ,この作品でのポワロは,NHKアニメがシリーズ全体を通して貫いてきた「人格者ポワロ」路線から,やや外れている。
 その外れ方が,ある意味,ポワロらしくて楽しいのである。
 ストーリー自体がもともとできのいい短編だと思うので,筋書きも十分に楽しめる。
 私の中では,NHKアニメのポワロ作品の中では,この作品は質的にここまでで最上位に位置すると思う。

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NHKアニメ・ポワロとマープル「二十四羽の黒つぐみ」

 世間からもう数か月遅れになっている気がするが,録画していたNHKアニメ名探偵ポワロとミス・マープル「二十四羽の黒つぐみ」を見た。
 原作は,「クリスマス・プディングの冒険」所収の同名の短編作品である。

 この作品は,筋立ての分かりやすさから言えば,映像作品向きなのかもしれない。
 ただ,筋立てが分かりやすすぎて,推理そのものはやや妙味に欠ける気がするので,見せ方に工夫が必要な作品なのだと思う。
 今回のこのアニメ作品は,平凡な印象しか受けなかった。
 犯人の前でメイベルに「24羽の黒つぐみ」の歌詞を言わせる演出などは,マザーグースを知らない日本人に対するわざとらしい説明でしかなく,まったくの蛇足だと思う。
 どうせやるなら,作品のどこかでメイベルに歌わせたりすればメロディも分かってずいぶん印象が違っただろうに,歌詞を言わせるだけなんて。

 やや,残念なできであったと言うほかないだろう。

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2005.05.29

NHKアニメ・ポワロとマープル「スリーピング・マーダー その4」

 録画していたNHKアニメ・名探偵ポワロとミス・マープルの「スリーピング・マーダー その4」を見た。
 スリーピング・マーダーの最終回である。

 原作とほぼ同じ経過をたどって結末を迎えるので,そのことについては特に言うべき点はない。
 原作では活躍するのにNHKアニメでは抹殺されていたジャイルズが,最後の最後にやっと登場した。
 メイベルに活躍をさせる必要があるという制約のために,NHKアニメはいつも筋書きで無理をしているという印象がある。
 いつも良い点は「原作をなぞっている部分」であり,悪い点は「原作を改変した部分」になってしまうので,どうにも高い評価をしづらい。

 また,スリーピング・マーダーという原作の選択も良くなかったのではなかろうか。
 この作品は,基本的にジョン・ウェブスターの「マルフィ公爵夫人」のセリフに関する知識が前提となっている
 このような日本で一般的になじみのない前提知識が問題とされる作品を,わざわざ選択してアニメ化したのはいったいなぜなのだろう。
 このNHKアニメは,どうにも原作の選択のまずさが際立っているように思う。

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2005.05.28

NHKアニメ・ポワロとマープル「スリーピング・マーダー その3」

 録画していたNHKアニメ・名探偵ポワロとミス・マープル「スリーピング・マーダー その3」を見た。

 結末を知っている人や察しのいい人なら分かると思うが,この第3回では視聴者をミスリードして真相から目をそらすための工夫がずいぶんなされている。
 例えば,グエンダの家のかつての小間使いであるリリーが,新聞記事を見て

 私が名乗り出て知っていることを話せば,お金がもらえるかもしれない
などと夫に向かって言い,さらに,ジェイムズ・ケネディ医師に手紙を書くと言い出す場面がある。
 その後,このリリーのことについてケネディ医師がグエンダたちに電話で伝える場面があるのだが,この辺りの描写などはよくできていると思う。
 ここはさりげなく描いているが,ケネディ医師をずっと後ろ姿で描写したところなどはなかなかおもしろかった。
 基本的に,クリスティーの原作のミスリードの上手さにそのまま乗っているだけなのではあるが,映像表現としてもそれなりに頑張っているようには思う。

 しかし,ジャイルズがメイベルに取って代わられているのは,やはりいかがなものかと思う。
 また,原作で用いられていた「猿の前肢」という表現を用いていないのはなぜなのだろうかという点も不思議に思う。

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2005.05.22

NHKアニメ・ポワロとマープル「スリーピング・マーダー その2」

 録画しておいたNHKアニメ・名探偵ポワロとミス・マープル「スリーピング・マーダー その2」をようやく見た。
 引越と新しい職場での仕事に忙殺されて,ビデオを見るのも感想を書くのもさぼってしまっていたのである。

 第1回を見てからかなり長い時間がたったが,とりあえず物語自体は原作を読んで分かっているので問題なかろうと思って見始めた。
 この第2回では,グエンダとメイベルが過去の眠れる殺人事件(スリーピング・マーダー)について,調査を行う過程を描いていた。
 表に出てこない隠れた犯人「」が存在すると仮定して推理を語り始めるメイベル・・・。
 ここで,私は,「あれっ?」と思った。
 犯人を「X」と呼んで推理を語る,この一見論理的に見える割にしろうとっぽい表現は,確かに原作でも使われていたような気がするが・・・。
 私自身も,意外と原作を覚えていないことに気付いたのである。

 原作を再びひもといてようやく思い出したのだが,これは原作において,グエンダの夫であるジャイルズが推理を語る際に使っていたのである。
 スリーピング・マーダーの原作は,グエンダとジャイルズの夫婦がいかにもしろうとの探偵ごっこのように過去の眠れる殺人事件を探り始めることから事件が展開をし始める。
 それを知り,過去の事件を掘り起こすことの危険性を指摘し,むしろその事件を探ることはやめた方がいいとまで警告するミス・マープルが印象的な原作なのである。
 そういう意味では,このNHKアニメはずいぶん原作と違う作品になっているような気がする。
 そもそも,NHKアニメでは,なぜグエンダの夫のジャイルズが登場していないのだろう。

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2005.03.20

NHKアニメ・ポワロとマープル「スリーピング・マーダー その1」

 最近,多忙だったため,録画していたNHKアニメ・名探偵ポワロとマープル「スリーピング・マーダー」の第1回を,今日になって見た。
 原作は,同名の作品「スリーピング・マーダー」である。

 今回は全4回中の第1回であり事件の導入部だったのだが,NHKアニメでの見せ方はあまり成功していないと思う。
 この作品導入部の魅力は,グエンダ・リードが抱く不思議な恐怖感にある。

 抱いていたイメージにぴったりの素晴らしい家を手に入れたグエンダ。
 まるで,家の隅々まで最初から知っていたような気がするイメージ通りの家。
 家にいろいろと手を入れて,寝室の壁紙にはひなげしと矢車菊の模様の壁紙を探してこようと楽しげな計画を立てるグエンダ。
 ところが・・・庭に降りる階段を造ろうとして地面を掘り返した時に見つかった,過去に存在した階段の痕跡。
 壁にドアを作ることを職人に依頼して調べてもらった時に見つかった,壁に塗り込まれていたドア。
 階段をのぼる時の不思議な不安感。
 そして,壊れて開かなかった寝室の戸棚を直してもらって開けた時,そこにはひなげしと矢車菊の壁紙が・・・。

 最初は元気一杯だったグエンダが,このように一種の既視感に結びついた不思議な不安に包まれていくところが導入部の最大の見せ場だと思うのである。
 ところが,NHKアニメは,このグエンダの経験をリアルタイムな表現でなく,ミス・マープルに事情を説明するグエンダの回想として表現してしまっているのである。 
 ここはグエンダの視点で物語を展開した方が,グエンダの不安感や恐怖感を視聴者にもある程度共有させることができ,より良かったのではないかと思う。
 原作でも,ここはグエンダの視点で話を展開しているのであるが,それは理由のないことではないだろう。
 この辺りがクリスティーのうまさだと思う。

 グエンダの視点で話を展開するとミス・マープルやメイベルの登場が遅くなるので,おそらくそれを嫌ったのではないかとも思うが,やはりグエンダの不安感を回想で語ってしまうのはもったいなかったような気がする。

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2005.03.06

NHKアニメ・ポワロとマープル「消えた料理人 後編」

 NHKアニメの名探偵ポワロとマープル「消えた料理人・後編」を見た。
 どうにもポワロを見ているような気がしない不満なできである。
 そもそもサブタイトルの「トランクの秘密」というのは,それ自体がかなりのネタバレだと思う。

 内容について言えば,前回も書いたが,作品全体から悪意や毒気を抜き過ぎている。
 特に,後半部分のトッド夫妻がいい人すぎて全く面白みがない
 このNHKアニメでは,トッド夫妻が,イライザ・ダンを明るい笑顔で再び家に迎えてあげて,給料を値上げしてあげた上,ずっと働いていてほしいと頼んでいた。
 もちろん原作にはこのような場面は全くないのであり,いったいどういう意図でつけ加えられた筋書きなのかさっぱりわからない。
 NHKアニメには,犯罪者以外の登場人物は全てが道徳的にいい人でなければならないというルールでもあるのだろうか

 トッド夫人がいい人になりすぎているため,小切手を自戒のために記念品としてとっておこうとするポワロの発言までピントがずれてしまっている。
 そもそも,原作のポワロは,比類なき名探偵である自分に1ポンドの相談料をよこしてお払い箱にしようとしたトッド夫人を大変非常識で失礼な人だと感じたはずであり,それだからこそ,「つまらない人物や失礼な人物でも,背後に何があるかわからないのだから軽視してはならない」との自戒を込めて1ギニーの小切手を換金せずに記念品として飾っておく意味があるのである。
 NHKアニメではその前提が崩れてしまっているので,小切手を記念品とする意味がほとんどない。

 ・・・もしかして,NHKアニメでトッド氏が

 ポワロさん,あなたの調査費用もお支払いしますよ
と言ったことに対して,ポワロが
 費用でしたら,既にいただいていますよ
と言いながら,1ポンドの小切手をトッド氏に見せたのは,トッド氏に対する痛烈な皮肉なのだろうか。
 そうだったらすごいと思うが,NHKアニメ全体の作りから見ると決してそうではないのだろう。

 全体として,この「消えた料理人」は粗ばかり目立って不満足なできだった。
 こういう作り方をしたいのであれば,この原作を選んだこと自体が失敗だと思う。

 次回は,なんと「スリーピング・マーダー」である。
 どういう基準で原作を選択しているのかなぞというほかないが,また新たな気持ちで期待して見ることにしよう。

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2005.02.27

NHKアニメ・ポワロとマープル「消えた料理人 前編」

 NHKアニメ・名探偵ポワロとマープル「消えた料理人・前編」を見た。
 原作は,短編集「教会で死んだ男所収の「料理人の失踪」である。
 前回の放送で予告編を見た時に書いたとおり,NHKアニメに出てくる人格者のポワロがこの作品中の失礼な依頼人に対して怒るのかどうかが興味深いところであったが,予想通りポワロは怒らなかった。
 NHKアニメは,原作から全ての毒気を抜いたような作りになっていたのである。

 そもそも,依頼人であるトッド夫人が原作ほど失礼ではなかった。
 原作では,トッド夫人が,ポワロの風体を見て,ポワロに対し

 新聞には,世にもまれなる名探偵だと書いてあったけれど,あれは,宣伝のために,お金をはらって書かせたものなの?
と言う場面があるのだが,そのセリフがなくなっていた。
 トッド夫人にそこまで言わせてしまうと,ポワロが怒らないのはさすがにおかしいので,トッド夫人のセリフの方を調整したということなのであろう。
 原作では,尊大なポワロが自尊心をいたく傷つけられる珍しくもおもしろい場面なのだが,NHKアニメのポワロはそもそも尊大でないから全くおもしろみのない場面になってしまっている。

 また,トッド夫人の家のメイドのアニーの扱いも,原作とは大きく印象が違っていた。
 原作ではアニーがかなり愚鈍なタイプの娘として描かれていて,ポワロが,アニーから話を聞き出すために心にもないお世辞を言ってアニーを誉める場面がある。
 NHKアニメで,ポワロがアニーに対して言った

 うーん,あなたは大変頭の良い方のようですね
 一目見ただけでわかりましたよ
というセリフは,まさに原作のその場面に相当する発言なのである。
 ところが,NHKアニメではアニーの愚鈍さをあまり強調していないため,そのポワロの発言のわざとらしさがあまり十分に表現されているとは言えないのである。
 この辺りなどは,デビッド・スーシェ主演の映像作品「名探偵ポワロ」では,原作以上にアニーを愚鈍な娘として描いていて,毒気はあるもののおもしろい場面に仕上がっているのであるが,NHKアニメではそういうわけないはいかないのだろう。

 それから,原作やデビッド・スーシェ主演の映像作品「名探偵ポワロ」では,ポワロは,料理人失踪事件などという事件を引き受ける羽目になったことを恥じて,ジャップ警部にそのことを隠そうとするのであるが,NHKアニメではそんな素振りすらみせなかった。
 やはり,NHKアニメのポワロは,一言で言えば人格者になり過ぎていると思う。

 今回のNHKアニメは,全体的にあらゆる毒気を抜き過ぎていて非常に物足りない印象であった。
 視聴対象年齢を考えればこういう作りになるのもしようがない気はするが,ここまでするのであれば,なにもこんなに毒気のある原作を選ばなくても,ほかの原作を選んでアニメ化すればいいのではないかと思う。

 もう一つ気になったのは,ポワロに送りつけられた小切手の金額が1ポンドになっていたことである。
 原作などでは1ギニーだったはずだが,NHKアニメではなぜ1ポンドに変えたのだろうか。

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2005.02.26

NHKアニメ・ポワロとマープル「動機と機会」

 録画していたNHKアニメ・名探偵ポワロとマープル「動機と機会」を見た。
 もちろん原作は,「火曜クラブ」所収の「動機対機会」である。
 ミス・マープルのこの短編集は粒ぞろいの良い作品集だと思う。

 この作品は,素直なアニメ化だったと思う。
 ミス・マープルは,基本的にこういう安楽椅子型に徹している話がとても向いている。
 ペザリック氏が,事件を語り終えた直後に真相を見抜いて笑い出すミス・マープルがとても良い。
 もう少し,ミス・マープルに「子供のいたずら話」をさせて話を脱線させ,メイベルを煙に巻くような感じにすると完璧だと思うが,ミス・マープルらしさはある程度表現されていた。

 少し残念なのは,原作より登場人物が少なく,ペザリック氏による事件の提示から解決までの「溜め」がなかったことである。
 原作では,何人かの登場人物が,その事件について,それぞれに独自の推理を披露する。
 つまり,この作品のポイントは,犯行の機会がある者には動機がなく,犯行の動機がある者には機会がないというところであるが,原作では各登場人物がそれぞれの観点から動機や機会についてやや無理のある推理を披露するのである。
 その無理な推理こそがストーリー上の「溜め」のような部分になっていて,そうやって動機と機会についてさんざん「あぁでもない,こうでもない」と言い尽くした後,ミス・マープルの見抜いた意外に単純な真相が明らかになるところが一つのおもしろみだと思うのである。
 NHKアニメにはそうした部分がないところが,少し物足りなかった。

 次回は,ポワロの「消えた料理人」である。
 この最悪の依頼人に対し,NHKアニメの人格者ポワロは,果たして原作通りに怒るのだろうか。

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2005.02.13

NHKアニメ・ポワロとマープル「プリマス行き急行列車 後編」

 NHKアニメ・名探偵ポワロとマープル「プリマス行き急行列車 後編」を見た。

 犯罪の現場に出かけてもいないポワロが聞き込みをしてきたメイベルの調査結果を見事に言い当てる辺りは,大変に楽しい。
 シャープ警部から犯人の一人が逮捕されたと聞いて,それが小柄な男であることをポワロが言い当てる辺りも,同様におもしろい場面である。
 この作品でのポワロは,キャリントン夫人のメイドから聞いた話をもとにして推論を重ね,その推論のみによって真相にほぼ到達したのであり,ポワロが説明するその推論の過程は,まさに安楽椅子型探偵の典型のような楽しみに満ちている。
 しかも,前回の放送でさりげなく見せていた新聞の売り子に対する聞き込みの場面も,ポワロの説明を聞けば明確な意味を持ってくるのであり,再度の視聴でも楽しめる見事なできであると思う。
 全体として,この「プリマス行き急行列車」は,妙味のある上質のミステリ作品に仕上がっていると思った。

 ただ,今日の放送の後半部分,すなわち犯人の追跡の場面はやや蛇足であろう。
 メイベルとオリバーの活躍の場面を設けるためにわざわざ犯人の追跡の場面をつけ加えたような印象を受けた。
 ポワロが真相を説明した後,すぱっと終われるような構成の方がよかったように思う。

 それから,何度も指摘していることであるが,NHKアニメではポワロが人格者になり過ぎているのが気になる。
 原作では,どちらかと言うと,事件現場を駆けずり回って捜査をするジャップ警部を皮肉ったりするのがポワロの役どころだったのだが,このNHKアニメでは,ポワロが,現場回りをしたメイベルに対して

 私の推理が間違いでないと証明してくれたのは,メイベルの報告なんですから
 感謝しますよ
などと言っていた。
 たしかに,メイベルに邪険にするわけにもいかないだろうが・・・。
 NHKアニメでポワロを知った子供たちが原作を読んだら,小説のポワロが意地悪に感じられたりするのではないかと心配である。

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2005.02.12

NHKアニメ・ポワロとマープル「プリマス行き急行列車 前編」

 NHKアニメ・名探偵ポワロとマープル「プリマス行き急行列車 前編」を見た。
 作中,殺害された被害者のキャリントン夫人を目撃した人物を探してメイベルがシャープ警部とともに聞き込みをする場面を見て,NHKアニメも一つの新境地を開いたという印象を抱いた。
 ウェストン駅で新聞スタンドの売り子に対する聞き込みをする場面が,非常によく工夫されていたのである。

 まず,シャープ警部が新聞の売り子に対し,キャリントン夫人の写真を見せながら

 これがキャリントン夫人だ
 見事なブロンドだったらしい
 どうだ,覚えてないか
と尋ねるのであるが,この時点では売り子はほぼ無反応であり,続いてメイベルが当時のキャリントン夫人の服装について絵を見せながら
 当日は,白い帽子にブルーのワンピース,そして,こんな感じの毛皮のコートを着ていたんです
 とても目立ったはずなんですけど
と言うと,売り子が
 あぁ,思い出した
と言い出すのである。
 結末を知っている人なら分かると思うが,NHKアニメのこの部分は視聴者に不自然さを感じさせないように配慮しながら非常に巧妙に聞き込みの様子を表現をしている。
 そもそも原作では,この聞き込みの場面は描かれておらず,ジャップ警部が聞き込みをしてきた結果のみが書かれているのであり,この場面について下手な描写をすれば作品全体を台無しにしかねないのであるが,このNHKアニメはそこをうまく乗り切っているのでこれは評価したいと思うのである。

 ただ,メイベルがポワロから「現場回りという重要な仕事を任された」などと言って,嬉々として現場に向かう場面にはやや違和感を感じた。
 少なくとも原作ではそうなのだが,多分,ポワロは現場回りを重視していない
 深読みすれば,重視していないからメイベルに任せたようにも見えるのであり,メイベルがうれしそうなのを見て非常に複雑な気分だった。

 また,こういう作品になると,原作のジャップ警部がシャープ警部に置き換えられているのが残念でならない。
 ジャップ警部はポワロを敬愛する一方,ときどき「今度ばかりは,ポワロさんも失敗しましたね。我々の方が一歩先んじたでしょう。」などと言わんばかりの失礼(?)な態度をとることがあり,それでも憎めない人物であるところが,ジャップ警部の個性のおもしろさだと私は思う。
 デビッド・スーシェ主演の「名探偵ポワロ」に登場するフィリップ・ジャクソンが演じているジャップ警部などは,この微妙な個性がうまく表現されていて物語に彩りを添えている。
 ところが,シャープ警部はやや行儀が良過ぎて,そういう個性が感じられないのである。

 しかし,やはりあの聞き込みの場面は,原作にもないのにここまで工夫したという意味で,大変秀逸な表現だと思った。
 後編のまとめ方に期待したい。

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2005.02.06

NHKアニメ・ポワロとマープル「パディントン発4時50分 その4」

 一週遅れで,録画していたNHKアニメ名探偵ポワロとミス・マープル「パディントン発4時50分 その4」を見た。

 原作自体の問題なのだが,やはりこの作品は解決編が今ひとつだと思う。
 ミス・マープルの立場では,被害者がクインパー医師の妻(←ネタバレのため黒い文字)であることに思い至る理由がないと思うのである。
 どうしても解決が唐突に与えられるという印象は否めない。

 また,最後に近い場面で,ミス・マープルが

 この事件はとても不幸なことでしたけど,彼らはとても大切なものに気付いたんじゃないかしら・・・
 かけがえのないもの,それが家族ですものね・・・
 ミスター・クラッケンソープに限らず,彼らは皆孤独でした
 でも,この事件をきっかけに家族がもう一度話し合ってきずなを深めることができれば,あの家族はもう一度やり直すことができるんじゃないかしら
と語ったところは,ややきれいにまとめ過ぎのように思う。
 人間の性質を知り抜いていて,うまくいっているように見える家族の間にもしばしば悪意が存在し得ることを最もよく知っているのがミス・マープルだと私は思うのである。
 そういう意味で,個人的には,なんとミス・マープルらしくない発言かと思った。

 それから,原作のルーシー・アイレスバロウの代役を務めていたメイベルが,ルーシーの代役らしく男性から好意を寄せられているのがなんとも。
 それを見たクラドック警部の

 いいですねぇ,若いってことは
との発言に爆笑した。

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2005.01.29

NHKアニメ・ポワロとマープル「パディントン発4時50分 その3」

 NHKアニメ・名探偵ポワロとミス・マープル「パディントン発4時50分」の第3回を見た。

 淡々と続く話である。
 前にも書いたように原作もそれほどトリックや伏線がある物語ではないから,話の経過はそれほど起伏がないし今ひとつもりあがらない。
 原作は,その分,クラッケンソープの屋敷に潜入したルーシー・アイレスバロウとその周囲の人たちとの間のエピソードで話をつないでいくのであるが,ルーシーをメイベルに置き換えているNHKアニメではそれがうまくいかない。
 全体として,今ひとつという印象が拭えない。

 例えば,今回の放送の最初の辺りで,ミス・マープルが

 メイベルは昔から頭が良くて,算数なんてびっくりするほどできたんですよ。
 私が牛肉を買ってお肉屋さんの請求額が多過ぎたときも,この子がすぐに暗算で正確な金額をはじき出しましてね。
 メイベル,覚えてる?
と言う場面も,たしかに原作にも同趣旨の発言はあるのだが,これはルーシーがオックスフォードで数学を専攻して首席で通していた頭脳の持ち主だという前提があるからユーモラスな発言になるのであって,ルーシーをメイベルに置き換えているNHKアニメではおもしろさが十分にあらわれてない。
 また,原作では,ルーシーとセドリックをはじめとする兄弟との会話などにおもしろみがあるのだが,メイベルはむしろアレックスやジェイムズと同じ世代になってしまうので,ここもうまくいっていない。
 いろいろな人に言われているが,ルーシーをメイベルに置き換えてしまっているのが残念である。

 意外なのは,NHKの公式ホームページのおたよりコーナーではメイベルとオリバーが大人気だということである。
 紹介されているおたより3通のうち2通が,「お気に入りはメイベルとオリバーです」旨断言している。
 私が少数派なのか,メイベルとオリバーを気に入った人の方がNHKに感想を送るという行動に出る確率が高いということなのか,NHKが肯定的な意見のみをホームページに掲載したということなのか,真相はわからない。
 しかし,このNHK公式ホームページを見る限り,メイベルとオリバーを登場させて大成功・・・ということになるのだろうか。

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2005.01.16

NHKアニメ・ポワロとマープル「パディントン発4時50分 その2」

 NHKアニメ「パディントン発4時50分 その2」を見た。
 今回は,主要な登場人物であるクラッケンソープ家の一族勢揃いである。
 今後の展開への向けての説明的な描写が多かったのでストーリー自体は起伏が少なかった。

 登場したクラッケンソープ家の人々の顔形を見て,少し笑ってしまった。
 原作でもセドリックが芸術家風,ハロルドがビジネスマン風,アルフレッドが山師風(?)なのであるが,アニメーションに出てきた彼らが,いずれもいかにもそれらしい顔になっていたのである。
 分かりやすいと言えばそれはそうなのだが,あからさまな感じがして少しおかしかった。

 興味深かったのはクラドック警部の登場である。
 エルキュール・ポワロの世界とミス・マープルの世界が同一世界になっているこの作品では,ポワロ作品に出てきているシャープ警部とクラドック警部は同僚ということになるのであろうか。
 そう考えると少し不思議な気がする。

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2005.01.09

NHKアニメ・ポワロとマープル「パディントン発4時50分 その1」

 今日は,NHKアニメ・名探偵ポワロとミス・マープル「パディントン発4時50分 その1(全4回)」を見た。
 とうとうミス・マープル登場作品の長編アニメ化である。
 原作は,当然,同名の「パディントン発4時50分」である。

 一部で予想されていたことのようであるが,美人でかしこいスーパー家政婦ルーシー・アイレスバロウが完全にストーリーから削られていて,メイベルが代わりを務めていた・・・これは痛い。
 そもそも,アヒルを連れた住み込みの家政婦などというものがいていいものか。

 物語としては,原作通りであり,導入部は非常に魅力的である。
 パディントン駅発4時50分の電車に乗っていたミス・マープルの友人エルスペス・マクギリカディが,併走する電車の中で人が殺されつつあるのを目撃することから話が始まるのであるが,この場面がおもしろいと思うのだ。

 原作では,そのことを周りの人にいくら話しても,周りからは「どうせ高齢の女性の言うことだし,うそか妄想だろう」だとしか思われずに困惑するというところがおもしろい味なのだが,NHKアニメではそういった要素が薄められていた。
 子供向けの品行方正なNHKアニメでは,どうせ年寄りの女性の言うことなんか信用できないなどと言わんばかりの態度を多くの人がとる場面は描きにくいのであろう。
 本当は,そんな信じられない状況から導き出した推理に基づいて,孤立無援の中,ミス・マープル(&ルーシー)が死体探しに奔走するという味こそがおもしろいと思うので,周囲から目撃内容を全く信用してもらえない様子をしつこく描写した方がいいと私は考えるのだが・・・。

 そのほか,細かい点だが,エルスペスがミス・マープルのことを「マープル」と呼んでいたことに違和感を感じてしようがなかった。
 そこは,「ジェーン」だろう。
 百歩譲っても,「マープルさん」又は「ミス・マープル」でなければならないと思う。

 細かい不満はいろいろあるが,残りの3回に期待しよう。

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2004.12.12

NHKアニメ・ポワロとマープル「クリスマスプディングの冒険 後編」

 NHKアニメ・名探偵ポワロとミス・マープル「クリスマスプディングの冒険・後編」を見た。

 残っていたのは基本的にポワロのなぞ解きだけなので,ストーリーとしてはやや間延びした印象であった。
 しかし,「子供たちのいたずら」が,一転して「殺人事件」になり,その後,更に「ポワロのいたずら(?)」に変化してしまうこの展開はなかなか楽しいと思う。

 原作と違うのは,ポワロが本物の宝石を,なんと雪だるまの中に隠すという大胆な行為に出たことである。
 ・・・いや,そりゃ,まずいだろう。
 一国の政治の安定を左右しかねないという宝石を隠した場所が雪だるまの中か。
 あんなことをして雪に紛れてなくなってしまったりしたら,それこそ大変である。
 この辺りは,アニメだから御愛敬ということなのか。

 私がこの作品の原作で特に好きなのは,最後に残されたなぞ,すなわちクリスマスプディングを食べないようポワロに警告した手紙の差出人が明らかになり,その理由を述べる辺りである。
 結局,通俗的な映画をやや見過ぎているのではないかとでも思われるアニイ・ベイツが,ポワロに警告するために書いた手紙であることが分かるのであるが,アニイの単純さと善良さから出た行為が最後のなぞにぴたりとはまるところが大変おもしろいと思う。
 このアニイは,この物語の中では実は大変な重要人物である。
 そもそも,デズモンドたちがルビーを隠しておいた正月用のプディングが,クリスマスに供されることになってしまったこと自体,アニイがクリスマス用のプディングの型の陶磁器を割ってしまったからなのであり,アニイがいなければ,ポワロがルビーを取り返すことができたかどうかは微妙なのだ。
 しかも,アニイはクリスマス用のプディングにポワロを殺害する細工がしてあると思っていたのであるから,もしかしたらクリスマス用プディングの型の陶磁器をアニーが「手を滑らせて」割ってしまったというのも,実はわざとやったのではないかという気すらしてくる。
 鍵になる女,アニイ・ベイツ。
 気になる存在である。

 来週からは,いよいよ全4回の「パディントン発4時50分」であり,楽しみである。
 原作は前に読んだことがある。
 しかし,最初の電車のシーンなどはおもしろい場面なので印象に残っているが,筋書きはよく覚えていない。
 外巻き猫さんが少し書いているのを読んだが,とりあえず,美人でかしこいスーパー家政婦ルーシーに注目らしい。

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2004.12.05

NHKアニメ・ポワロとマープル「クリスマスプディングの冒険 前編」

 NHKアニメ・名探偵ポワロとミス・マープル「クリスマスプディングの冒険・前編」を見た。
 原作は,同名の短編集に収録された中編である。
 12月に入り,クリスマスシーズンの季節物である。
 そういう時期になったか。

 クリスマス・プディングの冒険と聞くと,私にとっては,

セントラルヒーティングにこだわるポワロ
楽しげな子供のいたずら
が印象的である。
 非常に愛らしくて楽しい一編なので,個人的にはかなり好きな短編である。
 アニメでも冒頭,ポワロが,「イギリスの伝統的なクリスマス」よりも,「セントラルヒーティングによる現代的な快適さ」を求めていた。
 原作では,依頼を引き受ける前にポワロが念を押すように
 石油のセントラルヒーティングのことは,うそではありますまいね?
と確認するところがおもしろいのだが,さすがにアニメではそこまでは言わなかったようだ。

 クリスマスプディングに手をつけないようにというなぞのメッセージ・・・
 子供のいたずらが,急転直下,殺人事件に発展する驚がくの展開・・・
 ・・・ここで前編を終えて後編につなぐNHKアニメは,なかなか心憎い。
 来週の最後の辺りのまとめ方がどうなるのか,楽しみである。

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2004.11.28

NHKアニメ・ポワロとマープル「エンドハウス怪事件 その3」

 NHKアニメ・名探偵ポワロとマープル「エンドハウス怪事件 その3」を見た。
 エンドハウス怪事件も,これで最終回である。

 前回の感想の際に書いたが,マギー・バックリーの墓碑銘については,やはり今回のなぞ解きの際に言及されていた。
 名前の最後の文字が,"A"であることを,前回の放送でさりげなく見せているところがおもしろい。

 一方,マイケル・シートンの手紙の内容については,予想に反して言及されていなかった。
 前回の感想で書いた手紙の内容は,そのラブレターを出した相手の女性が「控えめで慎ましやか」であると書かれているものである。
 しかし,実はこの表現は活発な性格のニック・バックリーにあまりあてはまらない
 むしろ,だれもが内気だと評するマギー・バックリーにこそ似つかわしい表現なのである。
 ここも,そのラブレターの相手がニックではなくマギーであることをうかがわせる重要な手がかりになっているのである。
 そこを前回の放送のような形で,解決への手がかりとしてさりげなく提示しているのは大変おもしろいと思ったのだが,なぞ解きの際には敢えて触れなかったようだ。

 いろいろ問題はあるのだが,推理ものの作品の見せ方としては,この「エンドハウス怪事件」は非常によくできていたと思う。

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2004.11.27

NHKアニメ・ポワロとマープル「エンドハウス怪事件 その2」

 NHKアニメ・名探偵ポワロとマープル「エンドハウス怪事件 その2」を見た。

 前回も書いたが,どうもポワロが優等生すぎる気がする。
 やはりNHKの子供向けアニメ作品としては,名探偵は人格・態度ともに優れていなければならないという考え方があるのだろうか。
 特にそれを感じたのは,マイケル・シートンからバックリー嬢に対する手紙をポワロたちが読む場面である。
 NHKアニメでは,ポワロがわざわざ

 ニックさんの許可は得ています
などと発言して,他人の手紙ではあるけれども持ち主から了解をもらって読むのだという趣旨の発言をしていた。
 原作のエルキュール・ポワロなら,こういう場合,間違いなく持ち主に無許可で盗み読みするはずである。
 そういう人の秘密を平気で暴くポワロの態度に対して,常識人のヘイスティングズが顔をしかめる場面が原作ではたびたび現われるのであるが,子供向けアニメではなかなかそういうわけにはいかないのであろう。
 NHKアニメで,なんだかポワロが優等生に見えてしようがないのはそういうところにも一因があると思う。

 一方,推理ものアニメとしての見せ方はなかなかおもしろいと思った。
 ポワロが事務所でシートンの手紙を読んでいるシーンで,ポワロが手紙の文面を読み上げて

 「ぼくは君のような女性に初めて会った。控えめで慎ましやかで,そのくせ,芯が強い・・・。」・・・うーん。
と言っている場面などはなかなか心憎い。
 分かる人には分かるだろうが,ここは毒にも薬にもならない部分を読んでいるように見せかけて実はかなりのキーポイントになっている
 最終回で引用されることがほぼ確実なシーンであり,こういう見せ方をするのは非常に上手だと思う。

 もう一つ,おもしろかったのは,ポワロがマギー・バックリーの家を訪れて彫られている墓碑銘を見る場面である。
 これは原作にないNHKアニメのオリジナルのシーンだと思うのだが,その墓碑銘は人の影になっているため一部分しか画面に映らない。
 そして,その墓碑銘が

 ・・・・・A BUCKLEY
と読めるのである。
 その後,ポワロの目が墓碑銘に釘付けになり,墓碑銘の「BUCKLEY」という文字がクローズアップされて「バックリー」という字幕が出る・・・これも分かる人には分かるだろうが,視聴者をうまくミスリードして真相から注意をそらしており,大変おもしろい。
 ここも最終回のなぞ解きの際に言及されるであろう。

 マギー・バックリーの家で,ポワロが,ニックとマギーの写真を見ながら

 これは,どこかの飛行場ですね
と言っているのも,考えてみれば,決して無駄な発言ではない。

 推理ものの作品の作りとしては非常によくできていると思う。

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2004.11.23

NHKアニメ・ポワロとマープル「エンドハウス怪事件 その1」

 NHKアニメ・名探偵ポワロとミス・マープル「エンドハウス怪事件 その1」を見た。
 原作は,もちろん「邪悪の家」(ハヤカワ・クリスティー文庫)である。
 原作はポワロが登場する作品の中では比較的初期の作品なので,基本的にポワロ登場作品を時代順に読み進めている私にとっては,とても印象が強い物語である。
 冷酷非情な犯人像あの気の毒な被害者がとても鮮明に印象に残っているし,この原作でのポワロの自慢のしかたはいつものうぬぼれぶりから更に上を行っている
 この作品については,以前,実写の映像作品である名探偵ポワロの感想を書いたのでそれを参照されたい。

 今回のNHKアニメはその第1回であったから敢えてネタバレを避けて書くが,あの犯人のそしらぬ顔がなんとも言えなかった。
 この犯人は本当に悪魔のようだと思う。

 今回の放送の最後の場面で,マギー・バックレイが殺害されたことを知った後,ポワロが

 私は・・・なんという間抜けだ・・・
という場面があった。
 ここで,ついでに
 普通の人ならこれを防げなくても当たり前だが,この世界最高の名探偵の私が防げないとは・・・
とでも言ってくれればちょうどポワロらしい気がするが,そこまで言わないあたり,NHKアニメのポワロはちょっと優等生づらをしている感じがする。

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2004.10.19

NHKアニメ・ポワロとマープル「青いゼラニウム」

 NHKアニメ・名探偵ポワロとマープル「青いゼラニウム」を見た。
 原作は,「火曜クラブ」所収の同名の短編である。

 今回はできが悪いというほどではないし,そこそこの水準だとは思ったが,特別良くもなかった。
 今回がそうだったのだが,基本的に,ミス・マープルがあまりに名探偵として遇されていたり,名探偵との評判を聞きつけて人が事件を依頼しにくるというパターンはミス・マープルの本質を損なうように思えてならないのである。
 周りの人が皆,首をひねって悩んでいるのに,だれも期待していなかったミス・マープルが一人だけ真相を見抜いてずばり言い当ててしまい,周りの人がびっくりするというのが,ミス・マープルもののおもしろさだと私は思うのである。
 ある意味で本格推理小説の理想型とも言える「安楽椅子型」の探偵であることが,ミス・マープルらしさなのである。
 短編集「火曜クラブ」はそういう傾向が顕著な作品集であり,そういう意味でおもしろいと思うのだが,そこが少し改変されていて,NHKアニメではミス・マープルが名探偵として招かれて事件の捜査にあたるという趣向になっていたのである。
 それから,原作では,この作品でミス・マープルの親友ドリー・バントリー(後に長編「書斎の死体」や「鏡は横にひび割れて」にも登場する)が登場するのであるが,NHKアニメでは登場しなかったのが残念である。

 話の内容について言えば,原作では,壁紙の赤い花が青い色に変色していたという話を聞いたミス・マープルが唐突に

 ちょうどスズメバチの出る季節ですし,何もかもぴったり符合しますわ。
 あのガスのこともね。
などと言い出す独り合点ぶりがおもしろいし,それが理由のある言葉であることが後から分かるところがクリスティのうまさなのだと思う。
 NHKアニメでは,スズメバチの巣がある場面を見せてしまっていて,それをきっかけに事件が解決される仕組みになっているので,その辺りが物足りなかった。

 ただ,NHKアニメはやや怪奇趣味的な話の盛り上げ方はうまかったと思う。
 見事な怪談話になっていて,話に引き込まれるような魅力はあった。

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2004.10.16

NHKアニメ・ポワロとマープル「金塊事件」

 録画していたNHKアニメ・名探偵ポワロとマープル「金塊事件」を見た。
 原作は,「火曜クラブ」所収の同名の短編である。
 これが先週の放送分であるから,ようやく放送に追いついたことになる。

 そもそも火曜クラブ自体が珠玉の短編集であり,原作がいいということがあるのかもしれないが,このNHKアニメ作品も大変楽しめた。
 先週に引き続いて良いできだったと思う。

 甥のレイモンドが,編み物をしているミス・マープルに事件のことについて尋ねている最中に,ミス・マープルが,レイモンドに向かって

 ちょっと待って。
 どうやら目数を間違えたらしいわ。
 二目裏編み,三目表編み,一目外して,二目裏編み。
 そう,これでいいんだわ・・・。
 あぁ,なんでしたっけ,レイモンド。
と言うところなどは,ミス・マープルらしい雰囲気でとても楽しい。

 また,ミス・マープルが,レイモンドに

 だれだって,そんなことくらい知っているわ・・・(中略)・・・レイモンド,あなたもちゃんと所帯を構えるようになれば,こういうことがわかるようになるんでしょうけどね。
と言うところも,聞いていて笑い転げてしまった。
 こともなげに事件に解決を与えてそんなことは常識だと言わんばかりのこの態度こそ,ミス・マープルである。
 唖然とするレイモンドとの対比がおもしろい。

 原作を読み直してみたら,結局この辺りは原作のセリフをほぼそのまま使っていたようだ。
 だからこそ,ちゃんとミス・マープルらしくなっているのだろう。
 今回のNHKアニメも前回の「巻尺殺人事件」と同じくらいレベルが高かったと思う。
 不満は,レイモンドの声優(加藤雅也氏)があまり上手でないことくらいである。

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2004.10.11

NHKアニメ・ポワロとマープル「巻尺殺人事件」

 録画していたNHKアニメの「巻尺殺人事件」を見た。
 この巻尺殺人事件については,非常に上手なアニメ化ができていたと思う。

 かなりネタバレになるが敢えて書くと,最初のシーンが,ミス・ポリットが被害者の家の玄関の前に「立っている」場面から始まることなどは非常に心憎い。
 この短編の筋を知っている人なら分かると思うが,あの場面は玄関に「近づいて歩いていく」のではなく,既に「立っている」状態であることが非常に重要であり,原作もまさにその場面から唐突に始まるし,そのことに重要な意味があるのである。

 どちらかというとミス・マープルの能力に懐疑的で,メルチェット大佐(本部長)に促され,しぶしぶミス・マープルの話を聞きにくるスラック警部や,話ながらすぐ脱線気味になるミス・マープルも描かれていて,非常に良かったと思う。
 今まで見たNHKアニメの中では,すっきりまとまっていて一番いい作品だと思った。

 ただ,これはNHKアニメの責任ではなくて原作の問題なのだが,表題がちょっと良くないと思う。
 表題そのものがネタバレである。

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2004.10.10

NHKアニメ・ポワロとマープル「エジプト墳墓の謎 後編」

 録画していた名探偵ポワロとマープル「エジプト墳墓の謎 後編」を見た。
 アニメ制作者の立場は分かるが,この話については原作のおもしろみが消えてしまっていると思った。

 何より痛いのは,ニューヨークのルパート・ブライブナー氏が自殺する際に残した遺書めいたメモを,解決の時点で「後出し」したことその内容である。
 原作では,自殺の際に,「自分は癩病やみの流れ者で自殺するしかない」という内容のメモが残されていたことはかなり早い時点で明らかにされている。
 それでも,一見すると「癩病やみ」という部分が比喩的な表現として使われているように見えるので,真相がその時点ではわかりにくいという巧みな構成になっているのである。
 解決の際に,それが実は文字通りの意味だったということをポワロが指摘し,読者が納得させられるという仕組みなのである。
 ところが,NHKアニメではこれを完全に後出しにしているので,視聴者の目の前に手がかりがあったとは言いにくい構成になっている。

 それから,これは現在の社会状況ではしようがないのかもしれないが,遺書めいたメモの内容が,「僕のような不治の病に侵された者は死ぬしかない」という表現に改められていたのである。
 残念ながら,「不治の病」では「癩病やみ」の場合のような比喩的な意味が一切出てこない。
 もちろん,癩病すなわちハンセン病の患者が不当に偏見にさらされ,差別されてきた歴史を考えると,今や子供向けアニメで何の説明もなく,「癩病やみ」のような表現を使うことは確かに適切でないかもしれない。
 しかし,一方,そのように偏見にさらされ,差別されてきた歴史があるからこそ,そこでルパート・ブライブナー氏が自殺してしまう必然性が出てくるのである。
 アニメで「不治の病」という言葉が出てきたとき,「なるほどな」と思いつつ,「難しいものだな」と思った。
 だったら,どう表現すべきだったのかと言われると,それはそれで難しい。

 そういうわけで,制作者の立場は分かると思いつつ,原作の妙味は伝えきれていないと考えるのである。

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