おすすめトミーとタペンス(17)
アガサ・クリスティーが書いたトミーとタペンスのシリーズ4作目は,「親指のうずき」(ハヤカワ・クリスティー文庫)である。
この作品に関しても早川書房が翻訳権を独占しているため,訳本はこの1冊だけであり,迷うことはない。
最近,この「親指のうずき」を再読した。
この時代になると,トミーとタペンスは既に初老の夫婦となっている。
「にんじん頭」こと赤毛のトミー・ベレズフォードも,髪の色が砂色がかった灰色となったなどと書かれている。
このような年齢になりながらも,トミーとタペンスの会話は若いころと変わらないのが大変ほほえましい。
トミーの叔母さんを養老院に訪ねたところ,その養老院に入っていたランカスター夫人なる老婦人がタペンスにいきなり妙なことを話しかける。
あれはあなたのお子さんでしたの?
あれは,あそこにあるんですよ。
暖炉の奥に。
やや認知症気味の老人のたわごとなのか,それとも
何か深い意味があるのか・・・。
タペンスが再び養老院を訪ねた際,ランカスター夫人は慌しく親せきの者に引き取られた後であり,タペンスの懸命の努力によってもランカスター夫人はどこに行ったのか,その行方は全く知れなかった・・・。
何ゆえに,そしてだれに,ランカスター夫人は連れ去られたのか・・・。
ランカスター夫人が口走った何かがだれかの危機感をあおり,ランカスター夫人を連れ去らせることになったのか・・・。
不安を感じたタペンスは,独りなぞを追い始める・・・。
大ざっぱに言えばこのようなストーリーであり,ランカスター夫人がタペンスに対して口走った妙なせりふが暗示する恐ろしい背景を読者に想像させ,惹きつけつつ,物語を展開していくクリスティーの手際は素晴らしいと思う。
後期クリスティーお得意の,「過去の事件を探る」タイプの物語である。
ただ,個人的には,この最後の絵解きは,あまり十分なものとは思われない。
話の引っ張り方がうまいだけに,最後に十分得心できないところが惜しいと思うのである。
そのことについては,また,別の機会に述べることとする。
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